アメリカのほほん手帖

アメリカ東海岸在住16年、暮らしの諸々について綴ります

『騎士団長殺し』を読んでみた

私は、村上春樹の本が好きで、これまで結構彼の本を読んできたし、『騎士団長殺し』は今度日本を訪ねる時に買って読もうと楽しみにしていた。アメリカの地方に暮らす身としては、そう簡単には日本の本が手に入らないので、読みたい日本語の本があってもすぐに読めないところがつらいところである。

そしたら、去年の11月に旅先(アメリカ国内)で立寄った本屋さんで、『騎士団長殺し』の英語版が出版されたばかりだったせいか(2018年10月)、店頭に山積みとなっていた。全681ページの長編である。これ全部英語で読むのはつらいなあと思いながらも、本屋さんの独特の雰囲気に包まれたせいか、これも出会いと買ってきてしまった。

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読み始めるまでに時間がかかったり、2018年に大ベストセラーとなっていた日本語の本を友人に借りて先に読んだりしている内に、ついつい時間が過ぎてしまったが、ようやく『Killing Commendatore』を読み終えた。

面白かった。彼の小説に良くあるように、音楽が物語の背景に流れているが、今回は、モーツァルトの”ドン・ジョヴァンニ”が重要な役割を担っていたし、リヒャルト・シュトラウス(Richard Strauss) の”ばらの騎士(”Der Rosenkavalier")が何度か登場したり、シューベルトやモーツァルト等のクラッシック曲やブルース・スプリングスティーンの曲も織り込まれていた。物語を読み進める内に、そこに出てくる音楽を聴いているような気分になるのだ(オペラ ”ドン・ジョバンニ”も”ばらの騎士”も観たことがないので、いつか観てみなくては)。

第二次世界大戦中の悲劇が織り交ざりながら、現実世界ともう一つの別の世界が登場し、不思議な”穴”がその二つの世界をつなぐ役割を担う。主人公の画家と女子中学生Mariyeが体験する”Idea"や"Metaphor"の世界。子供の頃にはみんな垣間見ることのできる”別の世界”のことを、大人になると非現実なこととして、ほとんどの人は見(え)なくなってしまうが、この二人の登場人物は見る力を持っていた。"信じる”ことの大切さが語られ、未来への希望を示唆する内容で物語は閉じられているので、読み終えてほっとした。

また、不思議な”穴”とも関連して、本の中では”壁”の存在が語られ、ベルリンの壁や拘置所の壁が登場する。本来の壁の役割は人々を守ることなのだが、時折、人々を視覚的に、そして、精神的に圧倒する為に壁が利用されることもあると続く。この現在私が住む国の大統領も、壁を作ろうとして政治的な物議を醸しているが、確かに彼が作ろうとしている壁は、中の人々を守るというよりは、外の人達を視覚的に且つ精神的に拒絶する為のものなのだろう。

生臭い政治的な壁の話や様々な悲劇があちこちに存在している現実の世界だけれど、この本が語るように、”信じる”ことを忘れずに、自分の人生を歩いていかなくちゃなあと思った次第である。