アメリカのほほん手帖

アメリカ東海岸在住16年、暮らしの諸々について綴ります

アメリカの音楽教育:公教育の中での選択肢

昨日は土曜日、地域の公立高校生達で2日間だけ結成された総勢83名の弦楽オーケストラのコンサートがあり、聴きにいってきた。参加楽器はバイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスである。我が息子も高校でオーケストラへ所属、バイオリンを弾いており、この2日間だけのオーケストラへ参加した。

アメリカの教育の内容や形態は居住する州によってかなり違っている。また、County(日本でいうところの郡に近い)という単位で教育委員会が設けられ、そこがCounty内での教育カリキュラムについて管轄している。我々が居住するCountyのほとんどの公立中学・高校には弦楽のオーケストラと吹奏楽&打楽器のバンドがあり、選択科目の一つとなっている。例えば、中学に入学する時にオーケストラやバンド、或いはコーラスの音楽系、美術、ダンス、コンピューター、外国語等の選択科目の中から希望の科目を選択する(但し、希望の選択科目が取れない場合もあり)。高校になると選択科目の数は更に増え、必修科目の履修さえ満たしていれば、後の選択は比較的自由なようだ。例えば、ウチの息子は高1だが、コンピューター・プログラミングのクラスを選択しているし、同級生で心理学(オンライン)のクラスを取っている子もいる。また、大学受験には、外国語の履修が条件となっているところが多いので、高校では外国語を履修する子供も多いようだ。

話を元に戻して、この音楽の授業、例えば、中学でも高校でもオーケストラを選択すると、一日置きにオーケストラの授業があり(高校では90分)、授業中の課題、宿題やペーパー試験、実技試験で評価が決まる。年に二回、学校でのコンサートも開催され、家族や地元の人たちが観客となる。高校では、レベルごとのクラスに分かれており、Orchestra (Beg), Concert Orchestra (Int), Symphonic Orchestra (Prof), Chamber Orchestra (Adv)がある。もちろん中学からオーケストラのクラスを履修している子供に較べると3年分の開きがあるが、高校から始めることも可能である。昨日、息子の先生と話をしていたら、彼の生徒の内、10人が高校で初めてオーケストラに参加し、3人は辞めてしまったそうだが、7人は2-3年経った今では他の生徒と変わらない実力をつけてきているそうである。

また、Countyレベル、そして、その先では州レベル(おそらく国レベルでも)、毎年希望者を対象としたオーディションがあり、そこで受かると、Honors Orchestraに参加することができる。例えば、County Orchestraの場合、11月のオーディションの後、楽譜が配られ、各自で練習を重ねる。その後、1月に初顔合わせ、そして、2月の金曜・土曜の2日間で、外部から来る専門家が稽古をつけてくれ、最後、土曜日の午後のコンサートに臨むことになる。昨日のコンサートでは4曲を披露したが、即席のオーケストラにしては、音も揃っていて、なかなかのものである。このCounty Honors Orchestra、高校のみではなく、中学部門もあり、毎年多くの生徒が参加する(高校1レベル、中学2レベルで、各80名前後の総勢240名)。

将来音楽の道を目指す子供はもちろん、普通に高校で授業の一環として音楽を履修する子でも、学校でのコンサート出演や、(オーディションに受かると)Countyや州レベルでのオーケストラ参加の機会が与えられる。人前で演奏すること、そして、オーディションに通るということは、子供たちに自信を与えてくれ、もっと練習してうまくなりたいという、やる気を引き出してくれるのではないかと思う。高校ともなると、演奏者は正装である。男子は、黒のスーツ、ネクタイ、ドレスシューズに白のシャツ、女子は、黒のドレスやシャツ、スカート、パンツ、靴である。みんな緊張しながらも、パリッとして、得意げである。服装一つで、息子も普段と違ってやや大人びて見えた。

息子が小学生だった時、地元の中学校のオーケストラが彼の小学校の音楽の時間に、演奏を披露したことがあったらしい。その時、中学生のお兄さんがバイオリンを演奏するのを見て、自分も中学生になったら、オーケストラでバイオリンをやりたいと思ったそうである。私自身は最初は、バイオリンは敷居が高いというイメージしか抱いていなかったが、息子が始めてみると、別に小さい頃から習ったりしていなくとも、普通の子供でも結構弾けるようになるもんだということがわかった。

只、息子は中学校から初めてバイオリンに触れるというので、最初は基礎だけでもということで、プライベートでも先生について、個人レッスンを受けることにした。元プロの交響楽団バイオリニストで、今は子供達にバイオリンを教える先生だ。このMr.Linneyは、どちらかというといつもリラックスして、楽しい先生である。彼と息子の相性が良かったのか、息子はレッスンを辞めたいと言うことなく、4年目の今でも続いている。楽器の個人レッスンは値段が高いというイメージがあったが、週1回30分単位のレッスンで、そこまで高くない。もちろん居住場所や先生の経歴というもので、値段の差はあるのだろうが、この地域で普通の子がレッスンを受ける分には、庶民でも手の出せる金額で個人レッスン受講が可能だ。

我が息子は、大学ではComputer系の学科を専攻し、音楽も副専攻(Minor)で続けたいそうである。何か楽器が弾けるというのは、本当に良いことだと思うし、私の様に子供の頃オルガンやエレクトーンを習ったが、そのまま楽器演奏から遠ざかってしまった者からすると、うらやましい限りである。アメリカの学校教育、このような形で音楽教育が、普通に公立学校でも提供されているというのは、素晴らしいことだと思う。

私も子供達の演奏に触発されたせいか、家のインテリアと化してしまっているピアノの蓋を開けて、練習を開始しようかと思う。いくつになっても、人が何かを習得するのに遅すぎることはないと信じて(^^♪